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東京高等裁判所 昭和41年(ウ)1058号 決定

申請人 横浜小田急交通株式会社

右代表者代表取締役 長谷川一彦

右代理人弁護士 高山尚之

小笹勝弘

主文

横浜地方裁判所が昭和四〇年(ヨ)第九七二号地位保全仮処分申請事件について昭和四一年一一月二九日言渡した判決主文第二項は同年一一月分までの支払額のうち金一〇万円を超える部分及び同年一二月分以降の支払額のうち月額金三五、〇〇〇円を超える部分に限り申請人において金三〇万円の保証を供託するときは、右事件の控訴事件の判決言渡までその執行を停止する。

申請人のその余の申請を却下する。

理由

申請人代理人は主文記載の判決主文第二項に基ずく強制執行は右事件の控訴事件の判決があるまでこれを停止するとの裁判を求め、その申請の理由は別紙記載のとおりである。

よって按ずるに労働者が解雇を争い雇傭契約存在確認と賃金の支払を求める本案請求権保全の仮処分事件において、労働者の得べき賃金の支払を命ずる仮処分の判決がなされ、これに対する控訴による執行停止の申立については右仮処分の内容が権利保全の範囲を超え、その終局的満足を得させるものであるので、その執行により仮処分債務者に回復することのできない損害を与えるおそれのある場合には例外として民事訴訟法五一二条を準用することを妨げないと解される。(最高裁判所昭和二五年九月二五日大法廷決定参照)

しかし更に考えるに、その執行停止は仮処分制度の目的を滅却する危険が極めて大であることに鑑み特に慎重であることが要請されるわけであるから、諸般の資料を検討し必要性の認定に明らかな誤が窺える等特段の事由がある場合に限って執行停止が許されると解するのが相当である。

本件についてこれを見るに、≪証拠省略≫によれば、関谷孝は昭和四〇年一〇月から昭和四一年一一月末日までみづほタクシー株式会社との臨時雇傭契約に基ずき運転手として稼働し別表記載のとおりの収入を得ていることが一応認められる。このような継続的収入は本来の業務以外の一時的の収入とは認められないので、申請人が関谷の就労を拒否したことによって得られたものというべきであり、したがってこの部分については生計費の補顛がなされていて仮処分の必要性がないわけであるから前記判決の主文第二項の支払を命ずる金額のうち昭和四〇年九月一四日以降昭和四一年一一月末日までの部分について、右収入によって補顛されない昭和四〇年九月から同年一一月まで及び昭和四一年三月四月分までの約一〇万円に限り仮処分の必要性を認めるべきであり、また同年一二月分以降については疏明資料にあらわれた関谷の家族構成と生活環境及び同人が運転手として稼働能力を有することなど諸般の事情を総合し一ヶ月三五〇〇〇円の限度において仮処分の必要性を認めるべきである。

よって右の限度を超える部分については仮処分の必要性が認められないので本件申請により執行停止を許容し、その余の部分の申請は理由なしと認め主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 西川美数 裁判官 上野宏 鈴木醇一)

〈以下省略〉

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